「良好な胚を移植しても、なぜか着床に至らない…」
「原因不明の不妊に悩んでいる…」
こうしたお悩みをお持ちの方にとって
近年注目されているのが「子宮内フローラ」と
それを整える可能性を秘めた「ラクトフェリン」です
今回は、最新の研究報告を基に、ラクトフェリンが妊活、
特に着床環境にどのような影響を与えるのか解説していきます
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◆ラクトフェリンとは? – 多機能なタンパク質の力
ラクトフェリンは、母乳(特に初乳)に豊富に含まれるほか、
私たちの涙や唾液、鼻汁などにも存在する糖タンパク質です
その主な働きとして知られているのは
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〇抗菌・抗ウイルス作用
鉄と結合する性質を持ち、細菌の増殖に必要な鉄を奪うことで増殖を抑制します
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〇免疫調節作用
免疫細胞の働きを調整し、過剰な炎症を抑える効果が期待されます
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〇抗炎症作用
炎症を引き起こす物質(炎症性サイトカイン)の産生を抑える働きがあります
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〇腸内環境改善作用
善玉菌であるビフィズス菌を増やすなど、腸内フローラのバランスを整える効果も報告されています。
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これらの多機能性が、近年、生殖医療の分野でも注目を集めています。
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◆なぜ「子宮内フローラ」が着床に重要なのか?
かつて子宮内は無菌状態と考えられていましたが、
研究が進み、子宮内にも多様な細菌が存在し、
「子宮内フローラ」を形成していることが明らかになりました
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健康な子宮内フローラは、善玉菌であるラクトバチルス属が
90%以上を占める状態が理想的とされています
ラクトバチルス属は乳酸を産生することで子宮内のpHを酸性に保ち、
病原菌の侵入や増殖を防ぎ、免疫機能を調整することで
受精卵が着床しやすい環境を維持する役割を担っています
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しかし、このバランスが崩れ、ラクトバチルス属が減少し
他の雑菌が増えた状態(ディスバイオシス)になると
慢性子宮内膜炎を引き起こしたり
免疫応答に異常が生じたりして
着床障害や初期流産の原因となる可能性が指摘されています
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最新研究が示すラクトフェリンの可能性 – マウス実験より
ご紹介する報告では、細菌由来の成分(LPS)を投与することで
人工的に着床不全の状態(子宮内膜の炎症や受容能低下が起きている状態)
にしたマウスに、ラクトフェリンを経口投与しその効果を検証しました
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その結果、ラクトフェリンを投与されたマウスでは
以下の顕著な改善が見られました
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〇着床率の向上: 着床部位の数が有意に増加しました
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〇子宮内膜の受容能改善: 着床に不可欠な遺伝子「HOXA10」の発現が上昇し
子宮内膜が受精卵を受け入れる準備が整いやすくなることが示唆されました
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〇炎症の抑制: 子宮内膜における炎症性サイトカイン
(TNF-α、IL-6、IL-1βなど、炎症を促進する物質)のレベルが低下しました
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〇子宮内フローラの改善: 16S rRNA遺伝子解析という手法で
子宮内の細菌叢を調べたところ、ラクトバチルス属の割合が増加し
一方で特定の有害菌とされる細菌群が減少していました
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〇血中ラクトフェリン濃度の上昇: 経口投与されたラクトフェリンが
腸管から吸収され、血流を介して子宮に到達している可能性が示唆されました。
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この研究は、ラクトフェリンが腸から吸収された後
血流を通じて子宮に作用し、子宮内膜の炎症を鎮め、着床環境を整え
さらに子宮内フローラを善玉菌優位な状態へと導くことで
着床をサポートする可能性を強く示唆しています
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◆ラクトフェリンは、どのような方に特におすすめか?
この研究結果を踏まえると、ラクトフェリンは、
・原因不明の反復着床不全(RIF)でお悩みの方
・子宮内フローラ検査でラクトバチルス属の割合が低いと指摘された方
・慢性子宮内膜炎の治療中、または既往のある方
・少しでも着床環境を整えたいと考えるすべての方
にとって、検討する価値のある選択肢の一つと言えるかもしれません
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◆管理栄養士からのアドバイスと注意点
ラクトフェリンは、私たちの体にもともと存在する安全性の高い成分ですが
サプリメントとして摂取する際にはいくつか注意点があります
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〇あくまで補助的な役割
ラクトフェリンは医薬品ではなく、食品成分です
不妊治療の基本は医師による診断と治療であり
ラクトフェリンはそれをサポートするものです
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〇品質と種類
ラクトフェリンサプリメントには様々な種類があります
腸まで届くように工夫されたもの(腸溶性)や、
含有量、品質などを確認し、信頼できる製品を選びましょう
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〇専門家への相談
摂取を開始する前には、必ず主治医や私たち管理栄養士にご相談ください
特に他の薬剤を服用中の方や、アレルギー体質の方は注意が必要です
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〇全身の健康が基本
子宮内フローラだけでなく
腸内環境を含めた全身の健康状態を整えることが重要です
バランスの取れた食事、十分な睡眠、適度な運動、
ストレス管理を心がけましょう
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◆おわりに
ラクトフェリンと子宮内フローラの関係は
妊活における新たな希望の光となり得るかもしれません
まだマウスでの研究段階であり
ヒトでの大規模な臨床試験が待たれるところではありますが
その多機能性に着目し、日々の食生活や妊活への取り組みに
上手に取り入れていくことはメリットがあります
私たちは、皆さまの妊活を栄養面から全力で
サポートさせていただきます
ご不明な点やご不安なことがあれば、いつでもお気軽にご相談ください
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*参考文献*
Favaron A, Turkgeldi E, Elbadawi M, Gaisford S, Basit AW, Orlu M. Do probiotic interventions improve female unexplained infertility? A critical commentary. Reprod Biomed Online. 2024 Apr;48(4):103734. doi: 10.1016/j.rbmo.2023.103734. Epub 2023 Nov 20. PMID: 38359733.