亜鉛〜効率的な吸収のために〜

2026.08.12BLOG

亜鉛〜効率的な吸収のために〜

前回に続き、妊活に重要な「亜」鉛についてです
亜鉛は、「摂った量だけでは決まらない」ということがあります

亜鉛は、体の中で単独で存在しているわけではありません
ジンクフィンガータンパク質と呼ばれる、
亜鉛を抱え込んで初めて形を保てるタンパク質があります
このタンパク質は、遺伝子のスイッチを正しく入れたり切ったりする、いわば設計図の読み手です
卵子が育ち、受精し、細胞分裂を始めるまでの一連の流れは、
この読み手が正確に働くことで進んでいきます 1)

ところが、卵子のまわりで活性酸素(ROS)が増えすぎると、
この亜鉛を抱えたタンパク質そのものが傷ついてしまいます
一酸化窒素をつくる酵素も同じように亜鉛を必要としていて、こちらも影響を受けます
その結果、亜鉛は体内にあるのに、本来の仕事ができなくなるのです 1)

つまり…

亜鉛が足りない → 困る
亜鉛は足りているのに酸化ストレスが強い → やっぱり困る

なので「亜鉛を摂っているから大丈夫」とは言い切れません

では、活性酸素はどこから増えるのでしょうか

ひとつは、体の中の炎症です
子宮内膜症、アトピー性皮膚炎、副鼻腔炎のような慢性炎症をともなう疾患があると、
酸化する力と抗酸化する力のバランスが崩れ、
卵子の質に影響しうることが指摘されています 1) 2)

そしてもうひとつ、毎日の食事です
血糖値が急激に上がって下がる、いわゆるグルコーススパイクは
体の中で活性酸素を発生させます
甘い飲み物、菓子パン、麺類だけの食事、
こうした「単品の糖質」が続く生活は、知らないうちに卵子の環境を酸化にかたむけます
睡眠不足、喫煙、飲みすぎも同じ方向に働きます

そしてもうひとつ、見逃せないのが加工食品です
超加工食品の割合が高い食生活では、
亜鉛の摂取量そのものが有意に少なくなることが、複数の国の調査で報告されています 3)
理由のひとつは、精製の過程にあります
亜鉛は穀物のぬかや胚芽に多く含まれているため、
小麦を精白すると亜鉛は半分以下にまで減ってしまいます 4)
しかも、精製後に栄養を戻す強化では、鉄やビタミンB群は補われても、
亜鉛は補われないことがほとんどです 4)
白いパン、白い麺、菓子類が食事の中心になるほど、亜鉛は静かに失われていくのです

ここからは、まだ研究段階の話ですが、
亜鉛は、ほかの物質と結合すると本来の働きができなくなる性質があります
除草剤として使われるグリホサートも、亜鉛や銅と結合する性質をもつことが報告されており 5)、
卵子の質を扱った研究の中でも、環境由来の物質が亜鉛の利用しやすさに
干渉する可能性として触れられています 1)

ただし、これは主に土壌や植物での研究であり、人が食事から摂る亜鉛の吸収を
実際に妨げるかどうかは、まだ結論が出ていません
ですから、必要以上に怖がる必要はないと考えています
それでも確かなこととして、
加工されたものより、素材に近いものを選ぶ食べ方は、
こうした未知の要因からも私たちを遠ざけてくれるということです

だから妊活中の方は、
① 亜鉛の多い食品を選ぶこと(牡蠣、赤身の肉、レバー、卵、大豆製品、ナッツ)
そのうえで、亜鉛が働ける環境を整えること

② 具体的には、たんぱく質を毎食きちんととること
③ 野菜や果物から、ビタミンCやEといった抗酸化にかかわる栄養素をとること 2)
④ そして、糖質は単品で食べず、たんぱく質や脂質と一緒にとって血糖の波をゆるやかにすること

このように毎日の食事を整えることが、そのまま卵子の環境を守ることにつながっています

亜鉛の充足は、血液検査で血清亜鉛値を調べることができます
サプリメントを使うかは、自己判断ではなく、
検査結果をもとに医師の指示を受けてください
亜鉛はとりすぎると銅の吸収を妨げ、別の不調を招くこともあるからです

食事で土台を整える
検査で現在地を知る
必要な分だけ、専門家と一緒に補う

この順番が、遠回りのようでいちばん確実だと思っています

院長 柳由紀

*参考文献*

1)The Implications of Insufficient Zinc on the Generation of Oxidative Stress Leading to Decreased Oocyte Quality. Reproductive Sciences. 2023. PMID: 36920672
2)Oxidative Imbalance in Endometriosis-Related Infertility—The Therapeutic Role of Antioxidants. 2024
3)Dietary and Lifestyle Interventions to Mitigate Oxidative Stress in Male and Female Fertility. 2025
Ultra-processed food consumption deteriorates the profile of micronutrients consumed by Portuguese adults and elderly: the UPPER project. 2023. PMID: 36414867
4) Ultra-processed foods, dietary diversity and micronutrient intakes in the Australian population. 2024
5)Effect of Milling on Nutritional Components in Common and Zinc-Biofortified Wheat. Nutrients. 2023