不妊治療に取り組まれる中で
「なかなか妊娠に至らない」「もしかして黄体機能不全かも?」
といったご不安を抱えている方もいらっしゃるかもしれませんね
妊娠の成立と維持には、女性ホルモンのバランスが非常に重要ですが
特に「黄体」から分泌されるホルモンは、着床や妊娠初期の維持に欠かせません
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今回は、この大切な黄体の働きが、先日もブログで話題にした「活性酸素」によって
妨げられてしまう可能性がある、というお話をしたいと思います
実は、体内の活性酸素が多い状態、いわゆる「酸化ストレス」が
黄体機能不全を引き起こし、不妊の一因となる可能性が指摘されているのです
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<そもそも「活性酸素」って、どうして増えるの?>
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「活性酸素」という言葉、健康や美容に関心のある方なら耳にしたことが
あるかもしれませんね
私たちは呼吸によって酸素を取り込み、エネルギーを作り出しています
その過程で、取り込んだ酸素の一部が、通常よりも反応性が高く
他の物質を酸化させやすい(サビつかせやすい)状態に変化します
これが「活性酸素」です
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活性酸素は、少量であれば体内に侵入した細菌やウイルスを攻撃してくれる
体を守る役割も持っています
しかし、現代の生活環境には、活性酸素を過剰に発生させてしまう要因がたくさんあります
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ストレス: 精神的なストレス、過労など
生活習慣: 喫煙、過度な飲酒、睡眠不足、不規則な生活
食生活: 食品添加物、加工食品の摂りすぎ、偏った栄養バランス
環境要因: 紫外線、大気汚染、排気ガス
その他: 激しい運動、加齢など
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これらの要因によって活性酸素が過剰に発生し、体にもともと備わっている
抗酸化力(活性酸素を除去する力)で処理しきれなくなると、細胞がダメージを受けてしまいます
これが「酸化ストレス」、いわば体の"サビつき"と呼ばれる状態です
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<大切な「黄体」の働きと、その寿命>
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さて、この活性酸素による「体のサビつき」が
妊娠に重要な「黄体」にどう影響するのでしょうか?
まず、黄体についておさらいしましょう
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排卵後、卵子が飛び出した後の卵胞が変化してできるのが黄体です
黄体の最も重要な役割は
妊娠の維持に不可欠なホルモンである「プロゲステロン(黄体ホルモン)」を分泌することです
プロゲステロンは、子宮内膜を受精卵が着床しやすいように厚く、ふかふかな状態に整え、
妊娠が成立した後もその状態を維持するために働きます
まさに、妊娠を支えるベッドメイキングのような役割です
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通常、黄体は排卵後から約14日間、この大切な働きを続けます
そして、もし妊娠が成立しなければ、その役割を終えて自然に小さくなり
「白体(はくたい)」と呼ばれる組織になって消えていきます
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<活性酸素が黄体の早期退縮(早期白体化)を招くメカニズム>
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ところが、体内の活性酸素が多い「酸化ストレス」状態にあると
この黄体が本来の寿命を全うする前に、ダメージを受けて早く衰えてしまう可能性があるのです
いくつかの医学研究※によって、以下の可能性が示唆されています
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★黄体細胞への直接的なダメージ
過剰な活性酸素は、黄体を構成している細胞(黄体細胞)の膜や
細胞の設計図であるDNAを直接攻撃し、傷つけてしまうことがあります
これにより、黄体細胞の機能が低下してしまいます
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★細胞のアポトーシス(自死)の促進
細胞には、古くなったり傷ついたりすると
自ら壊れていく「アポトーシス」という仕組みが備わっています
活性酸素によるダメージは、このアポトーシスを必要以上に早めてしまう可能性があります
つまり、まだ働くべき黄体細胞が、早く店じまいしてしまうようなイメージです
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★エネルギー産生への影響(間接的な影響)
黄体は、プロゲステロンを大量に分泌するために多くのエネルギーを必要とします
このエネルギーは細胞内のミトコンドリアで作られますが
エネルギー産生の過程でも活性酸素が発生します
酸化ストレスが高い状態だと、ミトコンドリア自身もダメージを受け
エネルギー産生がうまくいかなくなり、黄体の機能低下につながる可能性も考えられます
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これらの要因が複合的に作用することで、活性酸素は黄体の組織を傷つけ
その寿命を縮めてしまうと考えられています
本来なら約14日間活動するはずの黄体が、それよりも短い期間で衰え
早期に白体化してしまうのです
(※医学研究においては、活性酸素種(ROS)が黄体のアポトーシスを誘導し
黄体の退縮に関与することや、酸化ストレスがプロゲステロン産生を
低下させる可能性などが報告されています)
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<早期白体化が「黄体機能不全」につながる>
黄体が予定より早く衰えてしまうと、どうなるでしょうか?
当然、十分な量のプロゲステロンを分泌できなくなったり
プロゲステロンを分泌する期間が短くなったりします
これが「黄体機能不全」と呼ばれる状態です
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黄体機能不全になると、
子宮内膜が十分に厚くならず、受精卵が着床しにくい
着床しても、妊娠を維持するためのホルモン環境が整わず、妊娠が継続しにくい
といった問題につながる可能性があります
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<妊娠に向けた「抗酸化対策」をはじめましょう!>
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「活性酸素が良くないのは分かったけれど、どうすればいいの?」と思いますね
大切なのは、活性酸素から体を守る「抗酸化力」を高めることです
私たちの体にはもともと抗酸化力が備わっていますが
年齢とともに低下したり、生活習慣の影響を受けたりします
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毎日の生活の中で、少し意識して「抗酸化対策」を取り入れてみましょう!
①バランスの取れた食事を心がける
抗酸化ビタミン: ビタミンC(パプリカ、ブロッコリー、キウイ)
ビタミンE(ナッツ類、アボカド)、β-カロテン(人参、かぼちゃなど緑黄色野菜)
ポリフェノール: ブルーベリー、大豆製品、緑茶など
ミネラル: 亜鉛(牡蠣、肉類)、セレン(魚介類、卵)なども抗酸化酵素の働きを助けます
色とりどりの野菜や果物を積極的に摂り、加工食品や外食に偏らない食生活を意識しましょう
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②生活習慣を見直す
質の高い睡眠: 体の修復と抗酸化力の回復に睡眠は不可欠です 7時間程度を目安に
ストレスマネジメント: 趣味や軽い運動、リラックスできる時間を作り、ストレスを溜めない工夫を
禁煙: 喫煙は活性酸素を大量発生させます ご自身だけでなくパートナーの禁煙も重要です
紫外線対策: 日光の浴びすぎは活性酸素の原因に 日傘や帽子を活用しましょう
適度な運動: ウォーキングなど、心地よいと感じる程度の運動は血行を促進し、抗酸化力を高めます
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これらの抗酸化対策は、黄体の働きをサポートするだけでなく、卵子や精子の質を高めたり
子宮内膜の環境を整えたりと、妊娠に関わる様々な面で良い影響が期待できます
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<最後に>
活性酸素対策は、妊娠しやすい体づくりのための大切な土台作りです
特別なことを始めるというよりは、毎日の食事や生活習慣を
少し見直すことから始めてみてください
もちろん、黄体機能不全や不妊の原因は様々であり、活性酸素だけが全てではありません
当クリニックでは、お一人おひとりの状態を丁寧に診察し、必要な検査を行い
医学的根拠に基づいた最適な治療をご提案しています
もし、ご自身の体のこと、治療のことで何かご不安な点があれば、決して一人で悩まず
私たち専門家にご相談ください。一緒に考え、前向きに取り組んでいきましょう
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院長